藤原歌劇団としては40年ぶりの上演となるオペラ「妖精ヴィッリ」。今回ヒロイン、アンナの婚約者ロベルト役を演じる所谷直生。ロベルト役は挑戦。チャンスだと思って精一杯演じたいと熱く語る彼に密着。
今最も旬なアーティストのリアルな声や、話題の公演に関する臨場感あるエピソードなど、オペラがもっと楽しめること請け合いの情報をお届けするコーナー「CiaOpera!」。第64弾は、2026年1月31日(土)・2月1日(日)に上演する藤原歌劇団公演「妖精ヴィッリ」に、ロベルト役で出演する所谷直生氏。歌を始めたきっかけから同級生との秘話、そしてロベルト役についてまで幅広く語っていただきました。
休日は大好きな野球観戦、最近ハマっているYouTubeを観て過ごしています
ー休日はどんな風に過ごされますか?
野球が好きなのでよく観ています。大谷翔平さんも観ていますし、応援してますよ。でも僕は一昨年、今年と優勝したタイガースファンです。タイガースがとても好きで、LINEのアイコンもタイガースです。
野球観戦に行くとしても平日の夕方ですが、普段はあまり外に出ないので、ケーブルテレビでパリーグも含めて全部試合見られるようにしています。スマートフォンでも見られるように契約していますね。
ー野球観戦がお好きなんですね!最近ハマってることありますか?
YouTubeですね。
大学生の頃はお金を貯めてタワーレコードとか行ってCDを買うのが趣味だったんですが、今はYouTubeでなんでも観ることが出来る。YouTubeって若者が見るものだと思っていましたが、1日中観ていられるし、どんどんおすすめが出て来るのでとても楽しいです。
ーYouTubeでは何を見るんですか?
オペラも観ますが、都市伝説が好きなのでそういうのも観ていますね。
オペラはどこの劇場などこだわりはなく観ます。クラシックや都市伝説系とかはずっと観ていますね。
あとは犬動画ですね。僕は犬が好きなんですよ!よく観ているのは『柴犬ロックちゃんねる。』です。ロックという柴犬がいて、この犬は散歩が嫌いなんです。日本語がちゃんと分かる犬なので、観ていてとても面白いです。ロックのグッズも販売していて、コンビニで生写真が購入できるので実際に購入しました。とても人気のあるチャンネルです。
都市伝説はUFOとかお化けが好きなんですよ。子供の頃に「誕生日プレゼントかになか欲しいものある?」と言われて、「心霊写真集買って!」と親に言ってました。

ーYouTubeで色んな動画を観られているんですね。ありがとうございます。
続いて、テノール所谷直生に迫っていきたいと思います。
座右の銘は『諦めないこと』。続けないことにはうまくいくかどうかは分からない。
ー歌を始めたきっかけを教えてください
国立音楽大学声楽科出身の親戚がいて、その人に「小さい頃にピアノやっていたから国立音楽大学に行こう!」と言われて、東京に行けるんだったら「歌をやろうかな」と思ったのがきっかけでレッスンに通い始めました。
高校2年生の夏ぐらいかな、コンクールに出場して、10数人中結果はビリでした。それが最初のコンクールで、悔しい思いをしたのをよく覚えています。
ー親戚の方の一声がきっかけで歌の世界に入られたんですね。
活動していく中で大切にしている座右の銘はありますか?
『諦めないこと』です。
これはとても大切にしている価値観です。続けないことにはうまくいくかはわからない。
私は高知県出身なので、東京に上京してからは一人暮らしをしなければいけなかったので大変でした。大学の同期には、森口賢ニさんや須藤慎吾さんがいます。大学の歌の試験時には点数が出ますが、 同学年に160人か170人いて、自分の成績はたぶん100何番目とか当たり前で、上の方見てずっと「いいな〜」って思っていました。卒業試験の時には10番代に入れましたが、上には上がいるんだなとずっと思っていました。
大学を卒業してから日本オペラ振興会の研究生として勉強をし、修了してからは実家帰ろうかなと思っていたら、当時の事務局の人から「「ナブッコ」っていう作品があるけど、合唱に乗りますか?」と連絡が来て、「いいんですか!」と嬉しかったのを覚えています。
これも諦めずに続けたからだと思っています。

ーソリストとして舞台に立ちたい気持ちはありましたか?
昔は藤原歌劇団公演以外でソリストをたくさん歌わせていただきました。若い頃は、同級生の村上敏明さんがいろんなところに連れて行ってくれて、彼の代わりに歌う機会が増えていきました。さまざまな公演で歌うようになったのは彼のおかげ。本当にありがたく思っています。
彼が「ラ・トラヴィアータ」のアルフレード役でデビューする時、僕はジュゼッペ役で出演していました。その公演はとても楽しかったです。ジュゼッペ役は何度も演じていましたが、あんなに緊張するのは初めてでした。
その他にも昔、長野県にある岡谷市文化会館(カノラホール)で「御柱」という7年に 1度上演するオペラに出演していました。御柱祭と同じ7年に1度にしか上演せず、第3〜5回目に出演させていただきました。
ー今でも活躍を続けている同級生が多くいらっしゃるんですね。所谷さんのオペラ歌手人生の中で影響を受けた歌手はいますか?
初めて藤原歌劇団の本公演に出演したのは、1999年の「ラ・ボエーム」の合唱でした。その時のキャストには、ミミ役にミレッラ・フレーニー、ロドルフォ役にはロベルト・アローニカが出演しており、その公演に合唱として出演しました。これは研究生を修了した年です。
その時のエピソードで覚えているのは、初めて合唱としての出演で右も左も分からない中、女性合唱の方と一緒に腕組みしながら演技をしなければいけなかったんです。24、5歳の男に「もっとリードしなさい」と相手の女性に言われて、「無理でしょ!」と思ってました。
その後も何度か合唱として公演に出演し、藤原歌劇団合唱部に育てていただいて、いろんなものをそこで学ばせていただきました。

ー合唱部での経験が今に活きているんですね。
テノールの醍醐味はなんだと思いますか?
やっぱり高音ですかね。僕もテノールのファンなので、テノールの声は聴きたいと思いますね。 CDとかもテノールばかり聴いちゃうし、なんだったら、オペラはテノールの場所ばかり聴いてますね。テノールってみんなそうだと思います(笑)
ー学生の頃から高音が出たんですか?
高い声は全然出なくて、大学受験の時は低声用で歌ってました。ミのフラットが出ればいい状態でしたね。みんな高音をどうやって出してるの?って思っていましたし、まず出し方が分からなかったですね。

ロベルト役を演じることが挑戦。チャンスだと思って精一杯演じたい
ー初めて「妖精ヴィッリ」を聞いた時、どんな印象でしたか?
プッチーニらしいなと思いました。
テノールが歌いたくなるような、口ずさみたくなるようなメロディーがいっぱい出てくる。あと半音階が多くて、それを上手に使っている。フィナーレに向かって怒涛のプレッシャーのようなものに引き込まれていきました。その反面、「うわ…とても難しそう。どうしよう」って思いました。同じ役を演じる澤﨑くんから稽古中に彼のいいとこ盗みながら歌いたいと思います。
ー音楽的に難しいところはありますか?
音が取りづらいところもあるというか、意外にあれその音?というような所が要所ごとにあるかなと思います。後のプッチーニの始まりみたいなところも随所に出てくるなと感じます。後に作曲する「マノンレスコー」とか「西部の娘」とかに出てきそうな旋律も多く出てきますね。
とても難しいところが多いですが、これから稽古を重ねて自分なりに歌えるようにしていきたいと思います。

ーロベルト役で一番挑戦したいことはありますか?
ロベルト役自体が挑戦ですね。この役はとても大変ですよ。
本当はリリコ・スピントとか重たい人が歌う役かなと思っています。それを自分がどう歌っていくのかは挑戦です。
第2幕のアリアはとても有名ですよね。学生の頃CDを趣味でたくさん購入していて、オペラの名前は知っていましたが、これは買ったこともなかったです。
藤原歌劇団公演では様々な公演に出演させていただいていますが、プリモ役を演じることは少なくて、「カプレーティ家とモンテッキ家」のテバルト以来です。なので最後のチャンスだと思って、精一杯頑張りたいと思います。

ーロベルトは弱い男と言われますが、それに対してどう思いますか?
僕も田舎者なので若さゆえの…みたいなのもあるし、都会への憧れじゃないけど、都会の方に行く気持ちは分かります。そこで若い頃だからこそ誘惑されて間違ってしまう。でも、その第1幕のアンナに対して想っている気持ちは本当だと思います。
ーロベルトをどのように演じたいですか?
第2幕で後悔して戻ってくるが彼女はもう生きてない。この第1幕の明るさと第2幕の暗さ。この差をつけるために、第2幕のアリアを際立させるためには、第1幕を明るくじゃないけど、あんまり匂わせないようにしたいなと思っています。
テノールの魅力である高い音は嬉しい時にも出すし、悲しい時にも出すし、後悔しても出すし、怒っていても出す。その都度、全部が違うと思うので、その呼吸もそうだし、音型にしてることもありますよね。
これはプッチーニが1番最初に書いたオペラなので、まだ未完成な部分もあるんだろうなと思います。例えば、感情を歌詞で表現していることもあれば、歌っているメロディーが表してることもある。そうではなく伴奏(オーケストラ)がその心情や状況を表してることもあると思います。
これらをうまく表現して、明るさと暗さ、ロベルトの心情を演じていきたいと思います。
ー最後にご来場くださる方にメッセージをお願いします
初めて聞く方も多いと思います。来年の5月に東京文化会館は改修工事に入り、3年間ぐらい閉館してしまいます。日本で一番歌ってて気持ちいいし、よく聴きに行くこともある劇場です。上野駅からすぐのところにあり、建物としても価値もあります。おすすめの座席は真ん中の席が多いB席です。
ぜひ劇場に観に来てください!お待ちしております。
