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  7. Vol.11-郡 愛子 3

CiaOpera!

お客様に感動を伝える大切さを、若い世代へ伝えていける。だから、歌い続ける。

−早速総監督として新しい試みを次々に実行されている郡さんですが、一昨年から昨年にかけて行われた40周年記念の3回のリサイタルなど、現役の歌手活動も精力的に継続されていますね。両立させるのは大変ではないですか?

そうですね、昨年度、総監督補として大賀先生とご一緒していた期間に、大変なお仕事であるということは感じましたけれども、これまで歌手としても制作期間の長いオペラと並行して、自身のコンサートやリサイタルをやるという活動を25年間ずっと継続してきました。ですので、もう習慣づいてしまっているのです。これはぜひ若い歌い手の方々に申し上げたいことですが、オペラ歌手は、コンサート歌手も目指してほしいというのが私の考えです。舞台の中央に独りで立ち全身全霊を込めてお客さまに歌いかける。その時自分の歌に誤魔化しは効きません。そしていつしかレパートリーが広がり、自分の歌を聴いて下さるお客様も増えてくる。その結果、自分の歌の成果を世に問うリサイタルにもつなげていくことができます。また舞台度胸がつきますし、そのことは地に着いた自分の歌を充分に歌えることにつながり、それは結局オペラの舞台で自分の力を充分に発揮できる自信につながります。オペラと並行して「自分の世界をつくる」という目標も持たれたら、人生がますます楽しいものになるかと思います。私も「歌を通じてのお客様方との対話」であるコンサート活動は、これからも続けさせていただこうと考えております。

郡愛子

郡愛子30周年記念リサイタル「生きることは愛すること」
(2005年11月21日/会場:東京芸術劇場大ホール)写真:津田惇一

−コンサート活動は、もうご自身のライフワークの一部となっていらっしゃるので、自然体でお出来になるのですね。

そうかも知れません。そして、やっぱり自分で実際に歌ってみることで、この歳でも「前よりもできるようになった」と感じることもあるので、そうした発見を若い方にアドバイスすることもできますし。私は、結構発声オタクなのです(笑)。やっぱり発声って、歌手にとっては命なんですよね。もう何十年も歌っていません、というのにあれこれ言うのではなく、今でも発声のことを大切に実践しているからこそ、発声で悩んでいる方に身をもって伝えてあげられることもある。その意味でも、コンサート活動はできる範囲で続けていこうと思います。ただ、オペラに出るというのはしばらく難しいかもしれないですけどね。総監督というのは責任ある仕事ですので、まずはそれが一番です。

−実際に歌う感覚や現場感を肌身で知っているからこそ、制作サイドにも活かせることがあるのですね。郡さんから見て、今の歌い手の方々はどうお感じになりますか?

日本オペラ協会にしても藤原歌劇団にしても、本当に才能のある方が多くて、「オペラに出たい!」という強い思いで涙ぐましい努力をされていると思います。それと並行して、先ほど申し上げたように「自分の世界をつくっていく」ということも、若い頃から考えていってもいいかもしれないですね。そうなると、「日本の歌」につながってくるんです。やはり、日本の歌は望まれますから。聴き手が日本人であれば、「いちばん分かりやすい日本語の歌が聴きたい」となりますので、歌い手も自然と日本の歌に入っていくことになるのではないかと思います。

−歌手自身にとっても、日本人として、という部分もありますよね。

はい。やっぱり自分が分かる言葉で歌うときって、「この歌詞の、この感動を人に伝えたい」と思うようになってくるんです。私も若い頃は声重視でしたが、日本の歌を歌うようになって、「自分の感動を丁寧にお客様に伝えたい」と思うようになりました。そうすると、お客様とのコミュニケーションもスムーズにとれるようになって、応援してくださる方もずいぶん増えたし、「郡さんの歌に心動かされる」といつも来てくださるお客様もいらっしゃいます。私の歌に感動するというよりは、お客様ご自身に何か思い出がある場合、それに重ねて涙したり、笑ったりされるんです。だから私は、先ほどのオペラのコンセプトとも重なりますが、「笑いと、涙と、大切なこと」というテーマでずっとコンサートをやってきました。そうすると自然に、自分自身で感動したことをどうしたら相手に伝えることができるかということを常に考えるようになり、歌を丁寧に歌うことにつながる。いつもコンサートが終わってからロビーでお見送りをするのですが、お客様が「今日、来て本当に良かった!」「感動しました!」とお声をかけてくださると、今度はこちらが「次はもっと良い演奏にしなければ」と考え、自分の歌にさらに磨きをかけるようになる。それがやがて「あの方が出ているオペラなら観てみたい」にもつながり、お客様方との相互関係がさらに深まる…そのように思います。

郡愛子

郡愛子25周年記念リサイタル「愛と感謝の歌」
(2000年12月6日/会場:東京芸術劇場大ホール)写真:津田惇一

—まるで、「感動」でコミュニケーションをとりあっているようですね。

そうですね。とにかく歌い手にとって、応援してくださるお客様というのはすごく大事な存在なんです。意外に気が付かないけれども、そういうことまで考えていくことで、歌い方もまた違ってくるかもしれない。リサイタルやコンサートのご案内状やチケットをお客様へお送りするとき、必ず自筆で一筆書き添えるようにしています。そういうちょっとしたコミュニケーションでも、すごく大事。若い方でも、これから10年、20年、30年とお客様に応援していただくためには、こちらも「気持ちを伝える」という努力をしていかなければならないですね。

—大変いいお話を、ありがとうございます。日本オペラ振興会は、団体をまたいで皆さんの仲がとても良いことで知られていますが、いい意味で年齢に捉われることなく、迷ったときには郡さんを頼れる、郡さんからも歌い手としてアドバイスをできるという環境にありそうですね。

そう!ですから逆に、私が総監督をやるのであれば「力を貸すから」と、歌い手の方も事務局の方も、皆さん言ってくださるんです。それに藤原歌劇団の折江総監督も、ものすごくいい方でしてね。エネルギッシュで、温かくて、日本オペラ協会に対しても大変ご理解があって。折江さんは、私が少し躊躇しているときに「一緒にやっていこうよ!」と言ってくださったんです。何十年間も続いてきたやり方を私が「変えたい」とお願いしたときも、もちろん事務局の皆さんがすぐに動いてくださったお蔭で実現したのですが、折江さんのご理解と後押しというのもとても大きくて。その柔軟さと温かさと、「一緒にやっていこうよ!」という言葉に励まされてここまで来ました。結局は、日本オペラ協会も藤原歌劇団も、同じ日本オペラ振興会のなかの二本柱ですからね。これまで60年にも亘り大賀先生がやってこられたことを引き継ぐというのは本当に大変なことですが、これからいよいよ総監督の仕事が本格的に始動するにあたり、そのスタート時点で既に皆様のお蔭で新しいことに一歩踏み出せたかな…と感じています。

新企画<聞いてみタイム>♪アーティストからアーティストへ質問リレー

—郡さんにも、前回インタビューさせていただいた押川浩士さんから、質問のお手紙が届いています。

若かりし頃、やっておけばよかったと、今思うことは何ですか?

やっておけばよかったこと(笑)?大体のことは人の10倍か、20倍か、100倍ぐらいやってきているから(笑)まぁ…勉強でしょうかね。

郡愛子

−それは、いわゆる学校の勉強ですか?

そうですね、中学高校ものんびりしていましたから(笑)。それから、若い頃にもっともっといっぱい暗譜しておけばよかった!若い頃に覚えた曲というのは、今でもサッと出てくるんです。ただ、歳をとってから暗譜した曲は全然覚えていないんですよ。あとのことは、大抵やってきましたからね。勉強と、暗譜。真面目すぎる答えかもしれませんが。「若い頃にやらなければよかったこと」だったら、お酒をあんなに飲まなければよかったことかしら(笑)!

−若い頃に暗譜された曲でサッと出てくる、というと、例えばどんな曲がありますか?サッと出てくる、いちばん好きな曲、でも良いのですが。

色々あって選ぶのが難しいけど、自分でショパンのピアノ曲「別れの曲」にオリジナルの詩をつけた、「これ以上の愛は」という歌は挙げられるかもしれません。

−ご自身で作詞もされるのですね!

はい、結構自分で詩をつけるんです。最初は色々な歌を原語で歌っていたのですが、それではお客様に気持ちが伝わらないと思って、あるときから自分で日本語の詩をつけるようになって。そのなかでも「これ以上の愛は」は、必ずコンサートの最後に歌うことにしていて、お客様は涙してくださるんです。でも、ずっとp(ピアノ:小さな音)で歌わなくてはならず、しかも結構音が高いんです。あの曲が歌えなくなったらちょっとまずいなと思うので、オペラ以外の曲を歌うにしても、自分の筋肉や体、発声や歌のテクニックを、いつでもしっかり整えておかなければいけないなと思いますね。

取材・まとめ 眞木茜

PROFILE:郡 愛子 Aiko KORI

郡愛子

2014年日本オペラ協会公演
「春琴抄」しげ女役

桐朋学園大学短期大学部卒業。同大学研究科修了。
1975年日本オペラ協会公演「春琴抄」でオペラデビュー。78年に「愛の妙薬」のジャンネッタで藤原歌劇団デビュー後、多くの公演に出演。NHK交響楽団を始めとするオーケストラと多数共演。02年横浜アリーナでの「3大テノール・ラスト・コンサート」にゲスト出演。04年「キャンディード」でオールド・レディを演じ絶賛を博す。また音楽番組や、ラジオ、CMソングなどにも多数出演。奥深い芳醇な声に恵まれた、日本を代表するメッゾ・ソプラノとして活躍している。
第13回、14回ジロー・オペラ賞受賞。
藤原歌劇団団員。日本オペラ協会会員。東京都出身。
2016年4月より日本オペラ協会総監督補を務め、2017年4月より日本オペラ協会総監督に就任。
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