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作品について

ロッシーニ作曲

オペラ全2幕 字幕付き原語上演

イントロダクション

第9回川崎・しんゆり芸術祭(アルテリッカしんゆり)2017のオープニングを飾るのは、藤原歌劇団公演「セビリャの理髪師」です。(指揮:佐藤正浩、演出:松本重孝)
今回の注目点は、なんといっても現在スカラ座をはじめ、イタリアを中心にロッシーニ・オペラのヒロインとして活躍する脇園 彩(Ms)が藤原歌劇団に初登場すること(4/29)。
脇園は東京藝大大学院を修了後、文化庁新進芸術家海外研修制度により2013年にパルマに留学。2014年にはペーザロ・ロッシーニ・フェスティヴァルのアカデミー公演「ランスへの旅」で、メリベーア侯爵夫人役に抜擢されました。彼女は同年ミラノ・スカラ座オペラ研修所に入り、2016年夏に修了したばかり。しかし2015年の夏にミラノEXPOに合わせて行われたスカラ座での研修生中心の公演(ルッジェーロ・ライモンディ、マッシモ・カヴァッレッティと共演)の「セビリャの理髪師」のロジーナ役で一躍注目を浴びて以降、すでにヴェローナ・フィラルモニコ劇場(「ラ・チェネレントラ」タイトルロール)、ボローニャ歌劇場(ロジーナ)、マルティナ・フランカ音楽祭(世界初演のメルカダンテ「フランチェスカ・ダ・リミニ」パオロ )、カリアリ・テアトロ・リリコ(「試金石」クラーリス)などに起用され、17年1月にはロジーナでトリエステ歌劇場にもデビューするなど、ロッシーニを中心としたベルカント・オペラの主役として、イタリアを中心に着々とキャリアを築き始めている逸材です。長身の恵まれた容姿と伸びやかな声、そして確かな歌唱技術は、これからの大成を期待させます。
現在イタリア在住の脇園にとっては、今回のロジーナが、留学後初の日本でのオペラ出演となります。相手役のアルマヴィーヴァ伯爵には、藤原歌劇団のロッシーニ作品には欠かせない存在となった中井亮一(T)。舞台経験豊富なフィガロの谷友博(Br)、芸達者なバルトロ役の柴山昌宣(Br)とともにしっかりと若いヒロインを支えます。
4/30の公演は、折江忠道総監督の目指す「藤原歌劇団の将来を見据えた若手の抜擢」を実現した意欲的なキャストでお送りします。ロジーナには、「ラ・トラヴィアータ」のフローラ、「愛の妙薬」のジャンネッタなどで、舞台に立つ毎に新境地を開いている丹呉由利子(Ms)を大抜擢しました。アルマヴィーヴァに、こちらも若く、これが当団本公演デビューとなる黄木透(T)、フィガロに「ドン・パスクワーレ」のマラテスタ役で好評を博した押川浩士(Br)、バルトロには「愛の妙薬」のドゥルカマーラに体当たりで挑戦した田中大揮(Bs-Br)他、新進気鋭の歌手たちが、将来の当団を背負っていく歌手に成長すべく、それぞれの役に果敢に挑戦します。こちらのフレッシュな顔ぶれによる公演にも是非ご注目ください。

見どころ・聴きどころ

ロッシーニのオペラ・ブッファの傑作「セビリャの理髪師」には、第1幕の幕開けすぐに歌われる伯爵のカヴァティーナ「空が白み始めた」とカンツォーネ「もし私の名前をお知りになりたいのなら」、フィガロ登場のカヴァティーナ「私は町の何でも屋」、ロジーナのカヴァティーナ「今の歌声は」、ドン・バジーリオの歌うアリア「陰口はそよ風のように」など有名なソロ・パートが目白押しですが、アンサンブルにも第1幕のフィナーレの「凍りついて動けない」からそれに続く機関銃のような早口での「恐ろしくうるさい鍛冶屋に頭を突っ込んだようだ」、第2幕でバジーリオを追い払う時の「ごきげんよう、先生」といったロッシーニならではの楽しいものがあります。また第2幕の最後に歌われる伯爵の大アリア「もう諦めろ〜この上なく嬉しく、幸せな」は、華やかなアジリタに彩られたロッシーニ・テノールの腕の見せどころです。

あらすじ

【第1幕】
(第1場)セビリャ・バルトロ邸の前にある広場
そろそろ夜が明ける。アルマヴィーヴァ伯爵の侍従フィオレッロが、そっと足音を忍ばせながら楽団員をつれてやってきて、ご主人の到着を待っている『そっと、そっと静かに』。
そこに学生姿の伯爵がやってきて、楽団の伴奏でロジーナの部屋のバルコニーの下で朝の恋の歌(オーバード)を歌い始める『空が白み始めた』。歌い終わっても彼女の部屋の窓は閉じたままで何の反応もないことにがっかりした伯爵は、フィオレッロに命じて、楽団員に報酬を支払って帰らせようとする。思ったよりもいいお金をもらった楽団員たちが口々に伯爵にお礼を言うのでその場が騒がしくなる。伯爵は必死に彼らを追い払う。

そこに鼻歌を歌いながら誰かが近づいてくる。やってきたのは伯爵の旧知の床屋のフィガロだった『私は町の何でも屋』。フィガロと伯爵は、思わぬ再会を喜び合う。伯爵が、医者のバルトロが後見人を務めるロジーナに恋をしているが、なかなか会うことも叶わないと知ったフィガロは、「自分はバルトロ家にとって、なんでも請け負う便利屋のような存在ですから、私がなんとかしましょう」と言って伯爵から金貨をもらい、彼の恋の成就のために一肌脱ぐことにする。
その時ロジーナの部屋のバルコニーの鎧戸が開き、ロジーナが姿を現す。ロジーナは手紙をわざと外に落とす。ロジーナは、あとから現れたバルトロに、「あら大変!《無益な用心》のアリアを書いた紙を落としてしまったわ、拾ってきてください」と言う。バルトロが拾いに出るために中に入った一瞬の隙に、伯爵はその手紙を拾い、すぐに物陰に隠れる。バルトロが外に出てきて周囲を見回し「どこにもそんなものは落ちていないじゃないか」と言いながら、家の中に戻っていく。

フィガロと伯爵が手紙を読むと、そこには「もうすぐ後見人が出かけます。彼が留守の間にあなた様がどういうお方で、お名前はなんとおっしゃるのか、なんらかの方法でお教えください。私はバルコニーに出ることさえひとりでは許されなくなりました。かわいそうなロジーナより」と書いてある。
バルトロが、戸締りを万全にして出かけて行く。彼が遠ざかったのを見て、伯爵はフィガロのギターの伴奏で「私の名前はリンドーロ。あなたをお慕いする貧乏な学生です」と歌う『もし私の名前をお知りになりたいのなら』。
そのメロディにロジーナが返歌で応じようとした時、誰かがヴェランダの鎧戸を閉めてしまう。伯爵は、「なんとしても彼女に直接会って、愛を伝えたい」と言い、フィガロは「金貨をいただければ、この何でも屋の私が、なんとでもして差し上げましょう」と伯爵に作戦を伝授する。
フィガロはバルトロ家に入っていき、伯爵は去っていく。散々待たされた上に置いてきぼりを喰わされたフィオレッロが、愚痴を言いながら伯爵を追いかけていく。


(第2場)バルトロ邸の内部
ロジーナはあの学生(=伯爵)に恋していて「彼と結ばれるためなら、私は知恵を働かせてなんでもするわ」と決心を語る『今の歌声は』。
フィガロがやってきてロジーナにリンドーロについて話そうとするが、そこにバルトロが帰ってくるので、彼はひとまず物陰に隠れる。
そこに音楽教師のドン・バジーリオが、ロジーナの歌のレッスンをするためにやってくる。バルトロが彼に、「明日わしとロジーナが結婚する手筈を整えてくれ」と頼んでいるのをフィガロが立ち聞きしている。
バジーリオが、「そういえばアルマヴィーヴァ伯爵が、ロジーナを追ってこのセビリャに来ているそうです。伯爵に悪い噂を立てて、彼を追い払いましょう」と提案し、陰口の効力は侮れないものだと話す『陰口はそよ風のように』。バルトロは、バジーリオを書斎に招き入れ、結婚証書を作成することにする。

その隙にフィガロはロジーナを呼び出し、リンドーロが彼女に夢中であることを伝えて、ロジーナも彼が好きならば、短くてもいいので手紙を書いてくれと頼む。すると彼女は、「もう書いてあるわ」と胸元から手紙を差し出す。その手際の良さに「こちらのほうが何枚も上手だ」とフィガロは舌を巻いて、手紙を持って伯爵のところへと向かう。
ロジーナの部屋にバルトロが入ってきて、「今朝、フィガロが来ただろう?何を話した?」と言い、便箋が一枚減っていること、彼女の指先やペン先がインクで汚れていることなどをネチネチと問い詰める。ロジーナはうんざりしながら、適当な言い訳で彼をあしらう。バルトロはロジーナが何か企んでいると感じて、「言うことをきかなければ窓も開かないようにして部屋に閉じ込めるぞ」と威嚇する『わしのような偉い医者に』。しかしロジーナには、そんな脅しなどどこ吹く風である。

玄関の外から伯爵の声がする。家政婦のベルタがドアを開けると、そこには酒に酔った風情の伯爵が、騎兵の制服姿で立っている『家の者は、誰かおらんか』。騎兵は軍からの宿泊許可証をチラつかせて今夜の宿を求める。バルトロは、「我が家は兵の宿舎になることを免除されている」と言って、その証明書を探すために机の中をひっくり返す。その隙を突いて伯爵はロジーナに、「私が落とす手紙の上に、ハンカチを偶然のように落として」と囁き、落としたハンカチを拾って渡すふりで手紙ごとロジーナに渡す。ロジーナはお礼を言いながら受け取り、その手紙をすぐに手近にあった他の紙とすり替える。ロジーナが手紙を受け取ったのを目ざとく見つけたバルトロは彼女に「その手紙を見せなさい」と迫る。だがロジーナが手渡した紙は、洗濯物のリスト。その場はバジーリオとベルタ、そしてフィガロも加わって騒ぎになる。騒ぎを聞きつけた士官と兵士たちも邸の中に流れ込んできて、家じゅうが大混乱。バルトロから事情を聞いた士官が、酔っ払った騎兵を逮捕しようとする。騎兵は身分証明書を士官にそっと見せて、自分が伯爵であることを示すので、士官は直立不動になる。不可思議な事の成り行きに全員がストップモーションになって、それぞれが「何が起きたんだろう」と口にする『凍りついて、動かない』。兵隊たちも加わってその場は収拾の付かない大混乱に陥る『恐ろしくうるさい鍛冶屋に頭を突っ込んだようだ』。

【第2幕】
「昨日の士官は偽物だった。きっと伯爵の手先の者に違いない!」とバルトロがぼやいている。
そこに今度は音楽教師に扮した伯爵が、「私はドン・バジーリオの弟子で、ドン・アロンソと申します。先生のお加減が悪いので、代わりにお嬢様の歌のレッスン参りました」と現れる『皆に平和と喜びを』。疑り深い目で見るバルトロに自分のことを信用させるために、「伯爵からこんな手紙を手に入れました。この手紙を利用して伯爵の本性をロジーナに知らせてはどうでしょう」と持ちかける。伯爵は一瞬このことでロジーナがリンドーロを誤解しなければいいが、と思いつつも、まずはバルトロに信用されることが先決だと考えて、ロジーナからの手紙をバルトロに渡す。

レッスンのために部屋に入ってきたロジーナはすぐにドン・アロンソがリンドーロであると見抜くが、バルトロの手前、素知らぬふりで歌のレッスンを始める。ロジーナの歌声を聴きながら居眠りをしてしまったバルトロの前で、二人は互いの気持ちを確かめ合う。バルトロが目を覚ますので、ふたりはパッと離れる。
バルトロが「その歌は退屈だ。わしが若かった時にはこんな歌が流行っていたのだ」と歌う『あなたが私のそばにいれば』。
そこにフィガロが現れて、バルトロの髭を剃りながら、なんとか彼の気を二人から逸らそうとする。泡だらけになったバルトロに「タオルを取ってこい」と言われたフィガロは、その晩伯爵と二人でバルコニーから忍び込むための鍵を手に入れるチャンスだと思うが、寸前でバルトロが「自分で行く」と言い出す。しかしアロンソとロジーナを二人きりにするほうが危険だと思い直して、フィガロに鍵の束を渡して取りに行かせる。ロジーナから、「一番新しい鍵がそれよ」と聞いたフィガロはタオルを取りに家の奥へと消えて、鍵をひとつ失敬した上で戻ってくる。

そこへドン・バジーリオがやってくるのでフィガロたちは大慌て。「病気ではないのか」と問うバルトロに、バジーリオは「なんのことか?」と問い返す。伯爵が隙を見てバジーリオにそっと金貨を渡して彼に、「顔色が悪い。帰って休んだほうがいい」と勧め、フィガロやロジーナもそれに唱和する『ごきげんよう、先生』。状況がよく呑み込めないが金貨をもらったバジーリオは、ひとまず退散することにする。
バジーリオを追い払うことに成功して、フィガロがバルトロの髭剃りの続きを始める。伯爵がロジーナにむかって、彼女からの手紙をバルトロに渡さざるを得なかったことを説明しようとするが、彼の口から出た「変装」という言葉にバルトロが鋭く反応する。しかし彼は結局、三人に煙に巻かれてしまう。ベルタが、バルトロの年甲斐もない言動と恋の馬鹿騒ぎを風刺する『年寄りが花嫁をもらおうと』。

外は大荒れの天気である。
バルトロとバジーリオが室内で相談している。バジーリオが「あのアロンソは、伯爵本人に違いない」というので、バルトロは「これは一刻も早くロジーナと結婚してしまわなければ」と焦り、バジーリオに、「公証人をいますぐ呼んでこい」と言う。バジーリオは、「公証人は今夜フィガロの姪の結婚式なのに。しかもこんな雨の中を」とブツブツ言いながら出て行く。フィガロは、夜中にロジーナを連れ出し、自分の家で伯爵と結婚させようと考えているのである。
バルトロがロジーナを呼んで、「リンドーロはとんでもない奴で、お前からの手紙を伯爵に渡して、彼にお前を売り渡そうとしている」と吹き込む。自分が書いた手紙がバルトロの手元にあるのを見たロジーナはその話を信じてしまい、「今夜リンドーロとフィガロが、自分を連れ出しにくる手はずになっている」と喋ってしまう。バルトロは嵐の中、警備隊を呼びに出て行く。

やっと嵐が行き過ぎた真夜中。フィガロと伯爵がバルコニーに梯子を掛けてロジーナの部屋の前にたどり着く。ロジーナは彼らを見て「なんて人なの!?私を伯爵に売り渡そうとするなんて!」と責める。伯爵は、彼女が貧乏学生のリンドーロを本当に愛していることを確信し、マントを脱ぎ捨てて伯爵の姿で彼女の前に跪き、「私こそがアルマヴィーヴァ伯爵。どうか私と結婚してください」とプロポーズする。彼女は喜んでそれを受ける『ああ、なんと意外ななりゆき』。
互いを見つめ合い喜びに浸っているふたりをフィガロが急き立てて、逃げようとするが、その時、梯子が外されていることがわかる。彼らは逃げ場を失って慌てる。
そこにバジーリオが、バルトロに頼まれたとおりに公証人を連れて戻ってくる。フィガロはすぐに知恵を働かせて公証人に、「ちょうどよかった、姪の結婚証書は持ってきたか」と聞く。ロジーナが他の男と結婚すると知って慌てたバジーリオは、バルトロに知らせに行こうとする。それを引き止めた伯爵は、自分の指輪を外して彼に与え、かつピストルをちらつかせて彼を制す。そしてバジーリオもフィガロとともに証人としてサインする。

バルトロが警備隊を連れて戻ってきて「あいつらが泥棒だ」と指差す。
伯爵は身分を全員の前で明かし、ロジーナとの結婚が成立したことを宣言する『もう諦めろ〜この上なく嬉しく、幸せな』。
悔しがるバルトロだが、持参金を払う必要も無ければ、彼女が持っていた遺産もすべて自分のものになると聞いて、ロジーナとの結婚を諦める。
全員が伯爵とロジーナを祝福し、めでたく幕が下りる『この幸せな結びつき』。
(河野典子)

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