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作品について

作曲:サヴェーリオ・メルカダンテ(1795-1880)Saverio Mercadante

台本:フェリーチェ・ロマーニ(1788-1865)Felice Romani

オペラ全2幕 字幕付き原語上演

イントロダクション

1975年から毎年夏に南イタリアのマルティーナ・フランカで開かれる〈ヴァッレ・ディトリア音楽祭Festival della Valle d’Itria〉は、〈マルティーナ・フランカ音楽祭〉とも呼ばれ、有望な若手を登用して世界に送り出していることでも知られています。サヴェーリオ・メルカダンテ(1795-1870)は、ベッリーニ、ドニゼッティらと同時代の作曲家。2016年にこの音楽祭で「作曲家没後150年」を記念して世界初演されたのが、この「フランチェスカ・ダ・リミニ」です。今回は、2016年の世界初演でタイトルロールを歌って絶賛されたスペインのソプラノ、レオノール・ボニッジャが再びこの役を演じます。ランチョット役には、ローマ出身で俳優としても活躍し、ベルカント・オペラから現代ものまで幅広いレパートリーを持って活躍しているテノール、アレッサンドロ・ルチアーノが初来日。パオロ役には、近年頭角を現してきたシチリア出身の若手メッゾ、アンナ・ペンニージ、フランチェスカの父グイードには2017年にこの音楽祭に出演した経験のある小野寺光が抜擢されました。指揮者のセスト・クワトリーニは、この音楽祭やメトロポリタン歌劇場でファビオ・ルイージのカヴァー・コンダクターを務め、オペラ指揮者として着実にそのキャリアを重ねつつあるイタリアオペラ界の期待を集める指揮者、ファビオ・チェレーザは、2016年に若手オペラ演出家アワードを受賞した気鋭の演出家です。次世代のオペラ界を担う若い力を結集させたこの公演に、どうぞご期待ください。

見どころ・聴きどころ

このオペラの主役たちには、ベルカント・オペラ独特の美しく憂いを含んだメロディと、高度な歌唱技巧が求められる大きなアリアがいくつも用意されていて聴きどころが満載です。第1幕の幕開きで帰還したランチョットが高らかに歌うカヴァティーナ「高潔な戦士にとって快いのは」では、その後半で妻に愛されない苦悩が綴られていきます。フランチェスカがパオロと恋人だった頃を懐かしむ「彼と私は小川のほとりの草の上に座り」は、切なさの溢れるカヴァティーナ。戦場での死を望んでも果たせずに戻ってきたパオロが歌うカヴァティーナ「おお、平和よ、どれほどの感謝を!」も複雑な心境を描き出さねばならない難しいアリアです。そしてここから物語は一気にドラマティックな展開を見せます。本を読みながらフランチェスカとパオロの恋心が再燃する、物語のキーポイントとなる美しいシーンが「グィネヴィアの隣に座って騎士は」から始まります。第2幕では、妻に裏切られ復讐心に燃えつつも妻への愛を断ち切れないランチョットの悩める男の「願ったのだ、愛の神と婚姻の神に」、投獄されるフランチェスカの「これが最後の涙よ」はどちらも実にドラマティックなアリア。そして修道院に入ると決めたフランチェスカにパオロが最後に会いにくる場面から、ふたりが死に至るフィナーレまで、物語は息もつかせぬ緊迫感で進んでいきます。

あらすじ

【第1幕】
ラヴェンナの貴族、ポレンタ家の娘フランチェスカは、傾きかけた家を支えるために政略結婚で、リミニのマラテスタ家に嫁ぐことになった。花嫁を迎える使者として現れたのはランチョットの弟で美男で知られたパオロ。ふたりは互いに一目で恋に落ちる。しかしリミニに着いたフランチェスカは、本当の結婚相手がパオロの兄であるランチョットであることを知るのだった。

<リミニの町を遠くに望む、ランチョットの館の前>
ランチョット率いるリミニが、ウルビーノに勝利したことを人々は喜び、戦士たちがランチョットを称えて彼を出迎える。ランチョットが姿を現わし、人々の賞賛に応え、勝利を収めて帰国できたことを誇らしげに語る。しかし、同時に彼は愛する妻フランチェスカが、いつも塞ぎ込んで自分に心を閉ざしていることを悩んでいるのだった。 カヴァティーナ「高潔な戦士にとって快いのは〜ああ、もし信じることができたなら」戦士たちは「フランチェスカも父上のグイードと話をすれば気持ちが晴れることでしょう」と彼を慰める。ランチョットは戦士たちを祝宴へと送り出す。グイードとふたりきりになったランチョットは、フランチェスカに祝宴に出席するように言ってくれるようグイードに頼む。「嫁に行く前の娘は快活で、しばしば騎馬試合に優勝したあなたの弟、パオロにも冠を授けていた」と語るグイードに、ランチョットは「フランチェスカはパオロを毛嫌いして、徹底して遠ざけているのだ」と訝しがる。グイードが娘と話すことを約束し、ランチョットは、父の言葉がフランチェスカの心を和らげてくれることを期待する。

<フランチェスカの部屋>
閉じられたカーテンの奥には、彼女のアルコーヴァ(ベッド)がある。侍女たちが、いつもであれば朝早くから起きてくるフランチェスカが、今日は昼ちかくになっても起きてこないと口にしていると、そこに悲しげな風情のフランチェスカが現れ、ランスロットとグィネヴィアの物語の本を読みながら眠ってしまったこと、そして夢の中での彼女が本当に愛するパオロと語り合った様子を幸せそうに語り、現実ではランチョットに嫁いだ我が身の不幸を嘆く。 カヴァティーナ「彼は私と小川のほとりの草の上に座り〜優しい魂たちよ、私の苦しみに憐れみを」フランチェスカは侍女のイザウラに「こちらに来て、愛しいイザウラ。今日は良い日になりそうな気がするの」と語る。イザウラから父グイードが会いに来ていると聞いたフランチェスカは喜ぶ。父が現れるが、その後ろにランチョットの姿を認めたフランチェスカの表情が曇る。ランチョットに「何がそんなにお前を悲しくさせているのだ?」と尋ねられた彼女は「自分は悲観的な性格で結婚に向いていないのです」と語り、父に、自分が修道院へ入りたいと懇願したのにも関わらず、結婚させられたことへの恨み言を言う。それを聞いたランチョットは、もしや妻には他に愛する男がいるのではないかと疑いを持つ。それを口にしたランチョットに対し、グイードが「それは私たち一族を侮辱するものだ」と怒りを露わにする。非礼を詫び、いつかは自分を愛してくれるだろうと希望を持つランチョットの言葉に、フランチェスカは肯定的な言葉を口にすることができない。三重唱「妻よ、お前を幸せにしたいのだ〜ああ、もしも信じられたなら〜千々に乱れる心に」

<ランチョットの館の前>
戦場から戻ったパオロが姿を現し、平和が訪れたことを感謝しつつも、フランチェスカへの思いを断ち切れずに戦死を願っても叶わなかったこと、ならばせめて彼女の側で死にたいと願う切ない恋心を語る。 カヴァティーナ「おお、平和よ、どれほどの感謝を!祖国の地よ〜私の目の中に再び君は見るだろう〜この希望だけが」館に入ろうとするパオロの心は震え、なにか大きな力がフランチェスカに会うことを押しとどめようとしているのを感じる。騎士や貴族の女性たちが戦勝を祝う騎馬試合へと向かうために通りかかるので、パオロは一旦姿を隠す。フランチェスカとグイード、ランチョットが姿を現して、フランチェスカに「騎士たちがお前から褒美をもらえることを今や遅しと待っている」と告げる。フランチェスカが昔ラヴェンナでパオロに冠を授けたことを思い出していると、そのパオロが目の前に現れる。フランチェスカは喜びと動揺で父の腕の中で気を失い、それを父が部屋へ運んでいく。ふたりになったランチョットとパオロは兄弟の再会を喜ぶ。そしてランチョットは妻に愛されない不幸を弟に語る。「妻に他に好きな男がいるのではないか」と口にしたランチョットだが、弟の様子からその相手がこのパオロなのではないかと疑いを持ち始め、彼のその疑いは、やがて確信へと変わる。二重唱「この世にこれ以上の酷い運命が〜もしこの心を知ったら彼女は〜残酷な矛盾が」

<フランチェスカの部屋>
愛するパオロの帰還に彼への想いを抑えきれないフランチェスカは神に救いを求め、「せめて自分にこのまま死をお与えください」と祈る。そこにパオロが姿を現す。彼もまたフランチェスカの姿に激しく動揺する。ふたりはランスロットとグィネヴィアの恋愛物語を読み進めるうちに、互いへの想いを抑え切れなくなり激しく抱き合う。そこにランチョットが現れ、「妻の不義の現場を押さえた」と怒りを露わにする。グイードと館の者たちも現れ、事の成り行きに驚き、それぞれが苦悩を吐露する。パオロは兄に「私だけを殺すがいい」と言い、フランチェスカも結婚する前にパオロを愛していたことを夫に告白し、「自分に死を与えて欲しい」と夫に訴えかける。ランチョットは、フランチェスカの投獄を命じる。皆が「ここにはもう平和はない」と嘆き合う中、第1幕の幕が下りる。 フィナーレ「あの方がお帰りになった… 彼を見たわ… 残酷な神が」「グィネヴィアの隣に座って騎士は〜ああ太陽よ、ヴェールで姿を隠して」「我々から平和は消え去った」

【第2幕】
<ランチョットの館>
館の人々が現状を嘆いている。そこにランチョットとグイードが姿を現して復讐心に燃えるランチョットの心をグイードが鎮めようとする。しかし、妻と弟が愛しあっていると知って傷ついたランチョットの怒りは収まらない。「ラヴェンナに娘を連れ帰る」と言うグイードにランチョットは「妻は返さない。そんなことをしようものならお前の領地に攻め込んで滅ぼしてやる!」と言い放ち、ふたりは決裂し、グイードがその場を去る。ひとり残ったランチョットは、妻に愛されない我が身の不幸を嘆きつつ、それでもまだ彼女を憎みきれない複雑な心境を語る。 シェーナとアリア「願ったのだ、愛の神と婚姻の神に〜ああ、不実な女のことを」

<地下牢へ向かう通路>
フランチェスカが幽閉されようとしている。フランチェスカの侍女や彼女に仕えてきた者達が、悲しげに見送りながら「どうかもう一度、彼女が日の当たる場所に出ることができますように」と祈る。フランチェスカがランチョットの家臣であるグエルフォに「ここが自分の死の場所なのか」と尋ねると彼は「その通りだ」と答える。フランチェスカが、自らの心の苦しみを吐露していると、そこに拷問されるパオロの呻き声が聞こえ、彼女は哀しみのあまり泣き崩れ、諦めの心境を語る。 シェーナとアリア「これが最後の涙よ〜抗おうとするのは無駄なこと」人々は彼女を憐れみ、「この苦悩に彼女は耐えられないだろう」と語り合う。そしてフランチェスカは幽閉される。
ランチョットが現れて「パオロとフランチェスカを処刑する」と宣言し、ふたりを引き出してくるよう衛兵達に命じる。ランチョットは自分に残る情愛が、彼らを罰することを迷わせないようにと自分に言い聞かせる。そして引き出されてきたふたりを尋問する。パオロは毅然と「死を受け入れる」と語り、フランチェスカも「殺してくれれば、私はこの苦悩から解放される」と語る。ランチョットは「剣と毒のどちらかを選べ」とパオロに言い、パオロは剣を選ぶ。フランチェスカは「私の目の前でパオロを死なせないで」とランチョットに懇願し、毒の入った杯を手に神に祈る。ランチョットもまた、「彼らに同情心を起こしてはならぬ」と自らに言い聞かせるように独白する。そこにグイードが兵を連れて現れ、ふたりの処刑を阻止する。グイードはランチョットに向かって「お前の非道な行いに、お前の臣下の者達も背を向けた」と語り、フランチェスカとパオロを連れて手勢の者たちとともにその場を去る。シェーナと四重唱「二人とも私の手中にある、雨雲よ、雷よ」「神よ、私の祈りを」「行け、傲慢な男よ、勝利は長く続かぬ」
妻と弟を連れ去られたランチョットは怒りに震える。グエルフォが現れ、フランチェスカの身柄を争って、ランチョットとグイードの兵が小競り合いをしていると報告をしている。そこにフランチェスカの侍女、イザウラが現れ、フランチェスカが「私は父にも夫にも従わず、修道院へ入ります」と言ったこと、そしてそれをグイードが許したことを告げる。それを聞いたランチョットは「私は永遠に妻を失ったのだ」と嘆く。

<修道院の中庭>
パオロがひとり現れる。「真夜中にもう一度だけ会いたい」とフランチェスカに伝えた彼は、彼女が修道院から出てくるのを待っている。そして「僕の命の代わりに彼女が生き延びることができるならば、喜んで死のう」と彼女への熱い心を独白する。そこに修道院の鐘の音が聞こえる。パオロは不安と苦悩に押しつぶされそうになり神に救い求める。 シェーナとアリア「すべてが鎮まりかえり、深い静寂が〜もしも私の生きる日々を断ち切って〜残酷な愛よ、ああ、私に許してくれ」フランチェスカが現れる。彼女にパオロは「死ぬならせめてあなたの足下で死なせてくれ」と訴える。フランチェスカも「父に命じられてランチョットに嫁いだが、心を捧げたのはあなただけだった。それは私の死が証明するでしょう」と語る。パオロは「ここから逃げて、ふたりで生きよう」とフランチェスカに熱く語りかける。初めは「あなただけ逃げて」とそれを拒絶するフランチェスカだったが、彼の情熱的な言葉にほだされ、最後には一緒に逃げることを承諾する。二重唱「残酷なあの人が得たのは結婚の印の私の右手だけ〜あの涙、あの言葉に〜ああ、私にそれをさせないで」だがそこにランチョットが現れ、「裏切り者を捕まえた!」と言ってパオロに「剣を抜け」といって自らも剣を構える。フランチェスカはその間に入って「私を刺して」と言った次の瞬間、パオロの剣を奪って自害する。パオロもすぐそのあとを追う。グイードが娘を探しに来るが、そこに見つけたのはフランチェスカとパオロの亡骸だった。ランチョットを責めるグイードに、ランチョットが「彼女は自分の犯した罪のために死んだのだ」と答えて、幕が下りる。第2幕フィナーレ「裏切り者、捕まえたぞ、動くな」
(河野典子)

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