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作品について

モーツァルト作曲「フィガロの結婚」

全4幕

〈封建〉と〈自由〉、時代の狭間を恋人たちはどう生きたのか

イントロダクション

モーツァルト(W.A.Mozart 1756-91)の〈ダ・ポンテ3部作〉と呼ばれる「フィガロの結婚」「ドン・ジョヴァンニ」「コジ・ファン・トゥッテ」の第1作目にあたる「フィガロの結婚」は、モーツァルトがオペラの作曲家として評価されることになった、いわば出世作です。

物語は、パイジエッロやロッシーニがオペラ化した「セビリャの理髪師」の後日談。原作は「セビリャ」と同じくフランスの作家ボーマルシェ(ペンネーム:Beaumarchais 本名:Pierre-Augustin Caron 1732-99)による戯曲「とんでもない一日、あるいはフィガロの結婚 La folle journée ou le marriage de Figaro」です。「セビリャの理髪師」では若い恋人たちだったアルマヴィーヴァ伯爵とロジーナが、夫婦の倦怠期を迎えるだけの時を経た後の伯爵邸における、とある一日の出来事が描かれます。

たわいのない日常を切り取った喜劇と見せておいて、このオペラには恋愛活劇だった「セビリャの理髪師」とは大きく異なる要素が隠されています。それは封建主義というひとつの社会のかたちが崩壊する歴史の変革期が描きこまれているということ。この作品の成功には、さりげない会話や人々の反応から、時代の変化を鋭く切り取った5幕ものの戯曲を書いたボーマルシェと、それを4幕のオペラにまとめ上げた台本作家、ロレンツォ・ダ・ポンテの筆力を忘れることはできません。

ロッシーニのオペラ「セビリャの理髪師」から、引き続き登場する人物は5人。伯爵の従僕となっているフィガロ。アルマヴィーヴァ伯爵と、その夫人となったロジーナ。ここでは伯爵が、封建主義の生き残り、権力にしがみつく旧態然とした男の代表として出現します。その彼が、オペラの大詰めで、使用人たちの前で妻に跪いて赦しを乞うという、封建主義の伯爵としては、あるまじき行為をせざるを得ない立場に追い込まれるのです。「セビリャ」で、フィガロに邪魔されてロジーナと結婚し損ねたバルトロは、その恨みを果たすべくフィガロの結婚を阻止しようと動きます。(そこには、とんでもないどんでん返しが待っていますが......。)そして残るひとりは、音楽教師のバジリオ。今回の彼は、前作にも増して風見鶏で、機敏に有利な側に擦り寄るだけではなく、要所要所で世の中を冷静な目で見つめた風刺の効いた一言を言い放ちます。

今回のフィガロは、前回の藤原歌劇団公演で伯爵を演じた谷友博(1/8)と、若手の小野寺光(1/9)が演じます。伯爵は2月の「リゴレット」でその高い実力を見せつけた須藤慎吾(1/8)と、新鋭の井出壮志朗(1/9)。伯爵夫人は2018年の「ナヴァラの娘」の主演で藤原歌劇団デビューを飾った西本真子(1/8)と、19年にこちらも「蝶々夫人」のタイトルロールで藤原デビューを飾り、〈ベルカントオペラフェスティバル イン ジャパン〉の「貞節の勝利」でもズボン役の主役を務めて好評を博した迫田美帆(1/9)。スザンナ役にはふたりの若手、中井奈穂(1/8)と横前奈緒(1/9)。ケルビーノには向野由美子(1/8)と丹呉由利子(1/9)。またヴェテランの持木弘、角田和弘、松浦健らが、脇を固めるのも嬉しいところです。
指揮は鈴木恵里奈。テアトロ・ジーリオ・ショウワ・オーケストラがピットに入り、2012年初演のマルコ・ガンディーニの舞台が、テアトロ・ジーリオに蘇ります。

見どころ・聴きどころ

モーツァルトのオペラの中でも世界中でもっとも多く上演されているのが、この「フィガロの結婚」。一日の出来事を描くには、少々冗長ぎみのこのオペラが愛されているのは、美しい音楽はもちろん、起こる事件や物事の辻褄が見事にあっている、いわば精密な台本にも負うところが大きいのです。
音楽的にはフィガロが歌う〈もう飛ぶまいぞ、この蝶々〉、伯爵夫人〈愛の神様、安らぎをお与えください〉、〈あの美しい日々はどこへ〉、ケルビーノの〈恋とはどんなものかしら〉、伯爵の〈私がため息をついている間に〉、スザンナの〈早く来て、愛しい人よ〉などの名アリアの数々もさることながら、物語の進行に重要な役割を果たしている重唱アンサンブルの美しさもこの作品の特徴です。

あらすじ

【第1幕】
フィガロとスザンナが、結婚後に住むために与えられた部屋で、フィガロはベッドを置くためのサイズを測り、スザンナは鏡の前で花嫁衣装の帽子を試しています。小二重唱「5...10...15...」

自分たちに与えられた部屋が、伯爵と伯爵夫人の居室のちょうど中間にあることをフィガロは「便利でいい」と言いますが、スザンナは「もし伯爵様があなたを遠くに使いに出して、その間にここにやってきて私を誘惑したら?」「私の持参金を伯爵が出す意味がわかっているの?」と言って、そんなに呑気に喜んでいる場合ではないこと、伯爵の企みには、音楽教師のバジリオも一枚噛んでいることをフィガロに教えます。スザンナは伯爵夫人が呼ぶベルの音に、部屋を出ていきます。はじめて伯爵の下心に気付いたフィガロは、伯爵への警戒心と反抗心を露わにします。カヴァティーナ「伯爵様、踊りをなさりたいのなら」

舞台にマルチェッリーナとバルトロが現れます。マルチェッリーナは、フィガロよりもずっと年上ですが、フィガロの借金の証文を手に、彼と結婚しようとしています。その相談を受けたバルトロは、かつてロジーナをフィガロのせいで伯爵に横取りされたことをいまだに恨んでいるのですから、自分とはずっと昔から因縁のあったマルチェッリーナをフィガロに押し付けるための協力を申し出ます。アリア「復讐だ!そうだ、復讐だ!」

マルチェッリーナがその場に残っていると、スザンナが戻ってきます。
マルチェッリーナはスザンナの身分の低さを嘲笑いますが、スザンナに「立派なお年ですこと」と切り返されて言葉を失い、憤慨しながら去っていきます。小二重唱「お先にどうぞ、素敵な奥様」

スザンナのもとに今度は伯爵の小姓ケルビーノがやってきて、恋に憧れる思春期の少年の気持ちを打ち明けます。そして伯爵夫人の髪を結えるリボンを見つけ、「このリボンをちょうだい、代わりに僕が作った歌をあげるから館の女性みんなに聴かせてあげてよ」と言います。アリア「もう僕は自分が誰で、何をするかもわからないよ」

そこに伯爵の声が聞こえてきます。ケルビーノはあわてて物陰に隠れます。スザンナとふたりきりだと思い込んでいる伯爵は、やおらスザンナを口説き始めます。「ロンドン大使に任命された私がフィガロを連れて行くのは、お前が秘密の大使夫人になるためだ。それ相応のお金もやるぞ」と伯爵は言いますが、スザンナはそんなことはまったく望んでいません。

そこに今度は音楽教師のバジリオがやってくる気配が。慌てた伯爵も物陰に隠れようとします。ケルビーノは、すんでのところで衣装かごに飛び込んで、蓋を閉めます。
やってきたバジリオがスザンナに「ケルビーノが奥様に憧れている」と面白おかしく話すのを聞いた伯爵は、怒りのあまり声を上げて出てきます。バジリオと伯爵の間で、スザンナは気を失いそうになりますが、かろうじて正気を保ちます。伯爵が、自分がバルバリーナのところに忍んでいったときに、そこにケルビーノが居た話をしながら、そのときの様子を再現すると、ここにもケルビーノの姿が......。驚く伯爵と、それを面白がって皮肉たっぷりに「女はみんなこうしたものCosì fan tutte」と独白するバジリオ。さすがのスザンナもこの状況は打開できません。三重唱「なんだと!さっさと行け」

そこにいいタイミングで、フィガロが村人たちを連れて現れます。
フィガロは村人たちに、伯爵が、フィガロとスザンナの結婚を認めたことを称賛させて、伯爵に挙式をすぐに行うことを認めさせようと試みます。しかし伯爵は「もちろん結婚は認めよう。だが盛大な結婚式を開くためには今しばらく時間が必要だ」と結婚式を先延ばしにし、村人たちを体よく追い払います。

ケルビーノは伯爵に謝ろうとしますが、「伯爵様がスザンナを口説こうとしていたのは初めから聞いていました」と余計なことを言ってしまい、伯爵に「士官のポストが空いているからすぐに行け!」と邸からの追放を命令されてしまいます。
しょげかえるケルビーノ。フィガロはケルビーノを女性から女性へと飛び回る蝶々のようだと揶揄しながらも、「出発はちょっと待て」とケルビーノに耳打ちするのでした。アリア「もう飛ぶまいぞ、この蝶々」

【第2幕】
伯爵夫人ロジーナの居室。夫人がひとり、自分から離れてしまった夫の心を悲しんでいます。カヴァティーナ「愛の神様、安らぎをお与えください」

夫人は、スザンナとフィガロから、伯爵がスザンナに手を出そうとしていることを聞き、悲しみと共に怒りが湧いてきます。「セビリャ」で描かれていた、才気煥発なロジーナの性格が顔を出し始めます。

伯爵を懲らしめるためにフィガロが立てた作戦の一環として、女装をすることになるケルビーノが送り込まれてきます。憧れの夫人の前に立ったケルビーノは緊張しますが、スザンナに「今朝、私に書いてきた歌を奥様の前で披露なさい」と言われて、自作の歌を歌います。アリエッタ「恋とはどんなものかしら」
少年の澄んだ歌声と初々しさに、伯爵夫人もうっとりします。フィガロの作戦に従い、伯爵夫人とスザンナは念のため部屋の鍵をかけて、ケルビーノを着替えさせます。アリア「こちらにきて、お膝を曲げて」夫人に命じられたスザンナが化粧室に帽子を取りに入っている間に、夫人はケルビーノが手にしていた士官の辞令に、そこにあるべき伯爵の印章がないことに気がつきます。

そこに狩猟に行って数時間は帰らないはずだった伯爵が(フィガロがバジリオを通じて仕込んだ「奥様が他の男と会っています」という手紙を読んで)踵を返して戻ってきます。夫人は慌ててケルビーノを衣裳部屋に隠し、化粧室から出てきたスザンナもとっさに物陰に隠れます。入ってきた伯爵は、普段は夫人が部屋に鍵などかけないことから、きっとなにか後ろめたいことをしていたに違いないと疑います。しどろもどろになった夫人は「衣裳部屋で着替えているのはスザンナです」と、とっさに嘘をつきます。

伯爵「出てきなさい、スザンナ」、伯爵夫人「声を出してはダメよ」、部屋の隅にいるスザンナ「まあ、大変!」と、3人がそれぞれ心情を吐露します。三重唱「スザンナ、すぐに出てきなさい」力づくで衣裳部屋のドアを開けるための道具を取りに行くと言う伯爵。しかし夫人をここに残しておいては中の男を逃すに違いないと思った伯爵は、夫人を伴って部屋を出ていきます。

そのあと物陰に隠れていたスザンナは衣裳部屋に隠れているケルビーノに声をかけます。身軽なケルビーノはヴェランダから飛び降りて素早く走り去ります。小二重唱「開けて、早く開けて」その姿を見送ったスザンナは、ケルビーノに代わって衣裳部屋に隠れるのでした。

金槌を手にした伯爵が夫人とともに戻ってきました。まさかケルビーノとスザンナが入れ替わっているとは想像もしていない伯爵夫人は、「中に隠れているのはケルビーノで、今夜の結婚式の余興のために着替えさせていたのです」と伯爵に告白します。「またあの小僧か。成敗してやる!」といきり立って伯爵が衣裳部屋のドアを開けると、そこに立っていたのはスザンナ。拍子抜けした伯爵と、何が起きているのかわからない夫人が立ち尽くします。

スザンナが「他に誰もいないか、どうぞ中をご覧になってください」と言い、伯爵が衣裳部屋の中をあらためているうちに、スザンナは夫人にケルビーノが飛び降りて逃げたことを耳打ちします。ここで形勢は逆転。衣裳部屋に他に誰もいなかったことを確認した伯爵は夫人に「私の誤解だった」と謝りますが、夫人は許さず「どうせ私は不実な妻ですわ」と伯爵に嫌味を言います。スザンナがそしらぬふりで間を取り持ち、一応この騒ぎは収まります。 そこにフィガロが「結婚式の用意ができました」とやってきます。伯爵は(フィガロがバジリオを通して渡した)手紙をフィガロに見せ、「お前が書いたのだろう?」と詰め寄り、スザンナたちも「もうバレてしまっているのよ」と言いますが、フィガロは「存じません」と言い張ります。
これでなんとかこのまま結婚式になだれこめるかと思いきや、酒乱気味の庭師のアントニオがやってきて、「空から男の子が降ってきて、植木鉢をいくつもダメにしていきました。そいつがこの書類を落としていきました」と伯爵にケルビーノの辞令を手渡します。これで形勢は伯爵有利に。伯爵は部屋にいたのがやはりケルビーノだったのだと悟りますが、フィガロは「スザンナとともに夫人の部屋にいた自分が慌てて飛び降りたのだ」と片足を引きずってみせます。なかなか決定打が見つからない伯爵は、ケルビーノの辞令をフィガロの目の前でヒラヒラさせて「これはなんだ?」と問いかけます。「それは辞令で......」と苦し紛れに答えるフィガロ。伯爵に「なぜお前が持っているのだ?」と問われたフィガロが苦し紛れに「欠けておりまして......」と答えたところで、夫人が辞令に印章がなかったことを思い出し、それをスザンナがフィガロに耳打ちします。フィガロはもったいぶった口調でふたたび「欠けておりまして」と答えます。「何が?」「その書類には必要な印章が欠けております」。確かに書類に印章がないことに気がついた伯爵は言葉を失います。

そこにマルチェッリーナ、バルトロ、バジリオが現れ、借金が返せなければフィガロはマルチェッリーナと結婚する契約になっているので、訴訟を起こすと騒ぎます。それは窮地に陥っていた伯爵には天の声、フィガロたちにとっては悪魔の声。混乱のうちに第2幕の幕が下ります。

【第3幕】
伯爵は「いったいなんでこんなことになってしまったのだ。訳のわからぬことばかりが起きる」と独り言を言っています。伯爵夫人がスザンナをけしかけて、伯爵を懲らしめる次なる一手を打とうとしています。スザンナは夫人に頼まれて伯爵の薬瓶を貰いにきたように装い、伯爵の誘いに乗るふりをして、夕方庭で密会することを約束します。小二重唱「酷いぞ、私をこんなに焦らせて」
伯爵をうまく嵌めることに成功したと思ったスザンナは、すれ違いざまにフィガロに「これで訴訟に勝ったわ!」と囁いて去って行きます。その一言を伯爵は聞き逃しませんでした。またも自分が罠に嵌められようとしていることに気がついた伯爵は、「フィガロとスザンナをみすみす結婚させるものか!」と決意を語ります。アリア「私が溜息をついている間に」

裁判官のドン・クルツィオとマルチェッリーナ、バルトロ、そしてフィガロがやってきます。訴訟はマルチェッリーナの勝訴。お金が返せなければ、フィガロはマルチェッリーナと結婚することで結審したと語ります。ところが話をしているうちに、フィガロが「自分は平民ではなく、赤ん坊のときにある貴族の館から誘拐されたのだ。その証拠が腕に残る絵文字のようなアザだ」と話すと、マルチェッリーナの顔色が変わり、バルトロに「あなた、あの子よ、ラファエッロよ」と語りかけます。フィガロはマルチェッリーナとバルトロの子供だったというわけです。思わぬ親子の再会に喜ぶ彼らと、憮然とする伯爵。そこに夫人からもらってきた金貨を手にしたスザンナがやってきて、抱き合っているマルチェッリーナとフィガロを見て、フィガロが自分を裏切ってマルチェッリーナと結婚することにしたと早合点し、事情を説明しようとしたフィガロの話も聞かず、彼に平手打ちを喰わせます。その後事情を聞いたスザンナも加わって、皆でこの奇跡を喜びます。もちろん伯爵とドン・クルツィオを除いて。六重唱「この抱擁を受けてちょうだい」

ここで場面を繋ぐために、庭師アントニオの娘バルバリーナと、女装をしたケルビーノが現れ、「他の娘たちと一緒に奥方様にお花を差し上げにいきましょう」と話しながら走り去っていきます。

場面は変わって伯爵夫人の居室。スザンナが来るのを待ちながら、「過ぎ去ってしまった愛の日々はどこへいってしまったのかしら」と夫人が我が身の不幸を嘆いています。アリア「あの美しい日々はどこへ」

アントニオがケルビーノが落としていった帽子を手に、彼が娘のバルバリーナを邸内にいることを伯爵に告げ口します。

伯爵夫人のもとにスザンナがやってきます。スザンナからこれまでの経緯を聞いた夫人は、次なる一手として、伯爵を庭の松林での密会を誘う手紙をスザンナに書かせます。ここから伯爵を懲らしめる作戦は、女たちだけで遂行されることになります。小二重唱「甘いそよかぜが」(手紙の二重唱)
夫人が「お返事に、このピンを返してくださいますように」と書き添えさせて、自分の髪からピンを一本抜いて、手紙に封印がわりに刺させます。

村娘たちがやってきて、伯爵夫人にそれぞれが手折ってきた花を手渡しますが、そこには女装したケルビーノも混じっています。それをアントニオが見つけ、伯爵がケルビーノを咎めようとしたとき、バルバリーナが伯爵の前に進み出て「旦那様、このあいだ私の家にきた時、私が旦那様を愛したら何でもでも願いを聞いてくださるとおっしゃいましたよね?ケルビーノを私のお婿さんにください」と言うので、伯爵はそれ以上何も言い継げなくなります。悔しい伯爵はフィガロを責めようとしますが、フィガロが言を右に左に上手にかわしているうちに、結婚式の刻限となり、行進曲が聞こえてきます。

スザンナとフィガロ、そしてフィガロの両親であるマルチェッリーナとバルトロの2組の結婚式が始まります。ダンスの間に、スザンナが書いた手紙を受け取った伯爵は、封印のピンで指を刺して痛がります。伯爵は返事のピンをスザンナに届けることをバルバリーナに命じます。

【第4幕】
真っ暗な中にカンテラを手にしたバルバリーナが、「伯爵から預かったピンを失くしちゃった」と探しています。カヴァティーナ「失くしてしまったわ」

そこを通りかかったマルチェッリーナとフィガロが、バルバリーナに声を掛けます。そこであのピンがスザンナから伯爵に送られたものだと知ったフィガロは、自分がスザンナに裏切られたのだと思い込みます。母親の髪からピンを抜いて、「ほら、ここにあったぞ」とフィガロはバルバリーナにそれを渡し、バルバリーナはそれを持って去ります。マルチェッリーナは、スザンナの人柄を信用し、「男たちに虐げられるのは人間の女ばかりだわ」と嘆き、フィガロがピンの存在を知ってしまったことをスザンナに教えるために去って行きます。アリア「牡山羊と牝山羊はいつも仲良し」

フィガロが暗い庭にひとり。そこにバルトロ、バジリオらフィガロに呼ばれた男たちが集まってきます。「ちょっと段取りをつけたら、すぐに戻る。俺が口笛を吹いたら皆集まってくれ」と言ってフィガロが一旦去ると、バジリオはバルトロに、フィガロがなんであんなに暗い表情なのか、理由を教えた上で、「世の中は権力者に歯向かうだけ無駄だと、自分は経験で学んできた」と語ります。アリア「世間知らずだったあの頃」

戻ってきたフィガロがひとり「間抜けな男たちよ、目を開けてよく見ろ!」と自嘲気味に語ります。アリア「間抜けで愚かな男ども、その目をもう少し開け」

マルチェッリーナと、互いに着るものを取り替えたスザンナと伯爵夫人が庭にやってきます。
伯爵夫人のドレスとマントを纏ったスザンナは、フィガロが近くに隠れているのを知りつつ、本当はフィガロのことを想いながら、愛する人を待つときめきを歌うのでした。アリア「さあ、早く来て」

ここからが、楽譜ではこのオペラのフィナーレとなり、こんがらがった糸がほどけるように、人間関係が解決していきます。
バルバリーナを追ってやってきたケルビーノがスザンナの格好をした伯爵夫人を見つけてキスを迫ります。「あの子に作戦をめちゃくちゃにされるわ」と気を揉む女性たち。やってきた伯爵、隠れていたフィガロが、それぞれケルビーノからスザンナ(の格好をした伯爵夫人)を護ろうとして、伯爵がケルビーノと間違ってフィガロを平手打ちするなど、薄暗い庭の中は皆が入り混じっての騒ぎになります。

伯爵は、スザンナを見つけ、それがまさか自分の妻がスザンナの格好をしているとは露とも思わず、彼女を口説きます。「大変、フィガロの声が」と逃げるスザンナ姿の伯爵夫人を伯爵が追いかけます。

愛する人に裏切られたと嘆いているフィガロを伯爵夫人の姿をしたスザンナが、夫人の声色で呼び止めます。フィガロが、「私の妻が伯爵と浮気を......」と訴え始めると、スザンナはつい自分の声で「もっと小さな声で」と言ってしまいます。その声でフィガロは、伯爵夫人の姿をしているこの女性が実はスザンナであることに気がつきます。

今度はフィガロがスザンナをからかうことにして、大仰に「奥様、旦那様とスザンナが浮気をするなら、私たちも!」と口説きにかかるので、驚いたスザンナは「なんて人なの!引っ叩いてやるわ!」とムキになって怒ります。
フィガロは笑って、彼女がスザンナであることに気がついていたと話し、ふたりは仲直りします。

姿が見えなくなったスザンナ(姿の妻)を探して伯爵が現れます。フィガロとスザンナは、わざとらしくフィガロが伯爵夫人を熱烈に口説いているような芝居を始めます。伯爵は、それを見て嫉妬と怒りに燃えて皆を呼びます。
全員が集まったところで、フィガロと伯爵夫人(の格好をしたスザンナ)のことを伯爵がこれでもかと罵倒します。フィガロたちがいくら「お赦しを」と願っても「絶対にダメだ」と伯爵は撥ねつけます。

そこにスザンナの姿をした本物の伯爵夫人が現れ、「私が彼らのためのお赦しを乞うことにいたしましょう。きっと赦してくださいますわ」と伯爵に言って顔を覆っていたヴェールを取り去ります。それを見た伯爵は言葉を失います。
伯爵はすべてを悟り、伯爵夫人に自らの行いの赦しを請い、夫人は「あなたの従順な妻は、あなたを赦します」と答えます。

全てが丸く収まって全員が「この苦悩と、とんでもない大騒ぎの1日を、皆が満足する喜びに満ちた愛のみが、終わらせることができる」と賑やかに結婚式の祝宴に向かうところで、このオペラは幕を閉じます。

(河野典子)※このあらすじは2012年マルコ・ガンディーニ演出の舞台に準拠しています。

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