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CiaOpera!

CiaOpera!(チャオペラ)Vol.19 小林厚子
Vol.19 -
小林厚子氏

日本初演『ナヴァラの娘』。
ヒロイン演じる小林厚子氏に、たっぷりと聞く。

マスネ作曲のオペラ『ナヴァラの娘』は、自分自身も耳にするのも初めてだった作品。けれど、随所に散りばめられたマスネの美しい音楽に魅了され、「歌いたい!」との思いが強まった。スペインのナヴァラに、天涯孤独で生まれ育った娘アニタ。やさしくも怖いくらいに純粋無垢なアニタの哀しい物語を演出家のマルコ・ガンディーニ氏や指揮者の柴田氏、素晴らしい共演者達・あらゆるスタッフの方々と一緒に丁寧につくりあげ、表現したい。プライベートでは、ちょっとした物作りや予定を決めすぎない旅行など、ふとした思いつきを楽しんでいる。

今最も旬なアーティストのリアルな声や、話題の公演に関する臨場感あるエピソードなど、オペラがもっと楽しめること請け合いの情報をお届けする新コーナー「CiaOpera!」。第19弾は、2018年1月27日に藤原歌劇団本公演『ナヴァラの娘&道化師』に、日本初演となる『ナヴァラの娘』のヒロイン・アニタ役として出演する小林厚子氏。作品や役に対しての想い、演出家、指揮者、共演者について、インスピレーションに満ちたオフタイムの過ごし方などについて伺いました。

やさしく、誇り高く、怖いくらいに純粋無垢。そんなアニタを表現したい。

−まず、『ナヴァラの娘&道化師』2本立て上演のうち、小林さんが出演される1月27日(土)の『ナヴァラの娘』についてお話をお聞かせください。この演目は、「日本初演」ともいわれるとおり、マスネ作曲の大変珍しい作品ですね。最初この作品のお話を受けたとき、どのようにお感じになりましたか?

もちろんマスネは有名な作曲家ですが、実は私はこの『ナヴァラの娘』という作品のことは知らなかったのです。ですから「どんな作品だろう?」と思うところからのスタートでした。楽譜ももちろん持っていません。お話をいただいてからすぐに私の先生にご連絡したら、先生がその貴重なめずらしい楽譜をお持ちで、その日のうちにコピーして、きれいに製本までして下さり、もう次の日には渡してくださったのです!先生のお心遣いが嬉しくありがたく、感激しました。ですので、楽譜はすぐ手元に来て。また、音源は検索したら少し古いプロダクションから比較的新しいものまで何種類かアップされていたので、研究しました。

小林厚子

先生が作ってくれた楽譜

−作品を観て、どうお感じになりましたか?

先に文献でもいろいろと調べていたのですが、“マスネのヴェリズモ・オペラ(市井の人々や激しい感情表現を取り上げた作品)”と呼ばれていることを知って、最初は「私に表現できるかしら?」と感じました。けれど実際に観てみたら、マスネ特有の美しい音楽が随所に散りばめられていて「歌ってみたい!」と思ったのです。

−なるほど。オペラのあらすじを簡単にご紹介いただけますか?

私の演じるナヴァラ生まれのアニタという娘は、両親もおらず身寄りもいません。いつもいつもマリア様に祈り語りかけています。激しいスペイン内戦下、兵隊たちに恋人アラキルの消息をと訊ねてまわる、そんな場面から物語は始まります。アラキルが帰ってきて、ふたりは再会を喜びあうのですが、そこへ彼の父親が現れて「自分の息子を、お前のような素性の知れない娘と結婚させるわけにはいかない。結婚したいなら持参金を持ってこい」と言うのです。そんなお金を持っているわけもなく、アニタは途方に暮れます。そんなとき味方の司令官ガリードが「誰か敵の司令官ズッカラーガを殺したら、報償金を出す」と言っているのを耳にしたアニタは「私が、それをやります」と申し出てしまうのです。一方アラキルは、アニタが敵の大将のもとへ向かったと聞いて、「彼女はズッカラーガの愛人だったのではないか」と疑いながらアニタを敵陣へと追いかけます。アニタは約束通りズッカラーガを殺し、持参金となるお金を手にしますが、負傷して戻ってきたアラキルは「血の報償なのか!…恐ろしい!」と言い残して死んでしまいます。教会の鐘が鳴り響く中、アニタは正気を失っていきます。ここでオペラは幕引きなります。

-あらすじには、アニタは最後に「笑う」とありますね。

演出家のマルコ・ガンディーニさんがおっしゃっていたことで印象的だったのが、「これは頭のおかしな娘の話ではなく、純粋な娘がある出来事を通して壊れてしまう話なんだ」ということです。オペラのフィナーレでは壊れてしまうのですが、ではオペラが終わったあとの人生をアニタが壊れたままの女の人として生きてしまうのか、それとも苦しみを乗り越えてたくましく生きていくのか、どちらだろうということをマルコさんと相談して考えています。

−オペラが終わったあとの人生まで考えているのですね!そんな役づくりのしかたもあるのですね。

はい。どうしてその後の人生まで考え始めたかといえば、まさに最後の“笑い”なんです。本当に精神的に壊れてしまったのか、それともその後立ち直って強く生きていけるのか…。笑い もそれによって変わってくると思うのです。

−アニタは、ガリードに暗殺のことを口止めされて、アラキルにも言わないですよね。

そうなのです。私などは「愛するアラキルになら、言ってしまってもいいのに」と思うのですが、もしアニタがもっと家族や友達に恵まれたりしていたら、言うことができたのかもしれない。天涯孤独で1人で生きてきたアニタの、怖いぐらいの純粋さなのかなと思います。良かれと思って行動したことが、全て悪い方へと運命が回りだしてしまいます。
アニタはきっとただただ愛する家族が欲しかっただけなのに…と、やるせなくなります。

−そんなアニタを演じることを、どう捉えてらっしゃいますか?

アニタって、アリアと呼べるような箇所がないんです。ということは、感情や心情を吐露する場面があまりなくて。他の人物の言葉の中などにアニタがどういう人物かというヒントはあるのですが、外的な境遇や状況は分かっても、アニタ自身がどう感じているか、内面がどうなっているかということを表している場が少ないので、逆にどう見せていこうかと考えるのが楽しいです。頻繁に上演されているオペラではないだけに、慣習に捉われずに楽譜から皆で掘り起こす面白さを、すごく感じています。アニタの生まれたスペインのナヴァラという町は、600年間も独立国だったそうで、そのためかナヴァラの人々はとても誇り高いという説もあります。「優しい瞳の娘だ」というアニタですが、物語のクライマックスに近いシーンでは彼女自身が「私には名前はありません、私はナヴァラの娘です」と言い放ちます。優しいだけの女性ではなく、そのように言うだけの思いの強さやプライドもアニタは持っているのだと思います。そして、その思いの強さが、やがてアニタの正気を揺るがしていきます。

小林厚子
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