int(10674)

作品について

見どころ・聴きどころ

ヴィオレッタ(S)最大の聴かせどころは、第1幕の最後を飾る「ああ、おそらくあの人なのね〜花から花へ」の大アリア。しかし、華やかなコロラトゥーラを駆使したこのアリアとは対照的に、音域も低く凝縮した悲しみの表現が求められる第3幕のアリア「さようなら、過ぎ去った日々の美しく楽しい夢よ」も同じソプラノが歌わねばならないところに、ヴィオレッタ役の難しさがあります。アルフレード(T)には若々しく、輝かしい声が必須で、第2幕の冒頭でヴィオレッタとの幸せな暮らしを語るカヴァティーナ「燃える心を」と、それに続くヴィオレッタが彼女の財産を売ってこの生活を支えている現実を知ったカバレッタ「ああなんという後悔」が最大の聴かせどころです。渋さが光るアルフレードの父ジェルモン(Br)が、息子を故郷に呼び戻そうと語りかける「プロヴァンスの海と陸」もヴェルディ・バリトンを代表するアリアのひとつです。
このオペラは、華やかなアリアばかりが注目されがちですが、実は緻密な心理表現が歌手たちに求められる作品でもあります。特に第2幕第1場のほとんどを占めるヴィオレッタとジェルモンの二重唱「天使のような清らかな娘を」は、息子を高級娼婦から取り戻そうとする父と、真実の愛だからこそアルフレードの家族のために身を引くことを決意するヴィオレッタの対峙と動揺、諦観、同情そのすべてが二重唱の中だけで表現されねばならず、歌手たちの実力が試されるところです。

あらすじ

第1幕

パリのヴィオレッタの館
上流社会の男たちが集うヴィオレッタ・ヴァレリーの豪奢なサロンにはドゥフォール男爵をはじめ、公爵、子爵といった貴族の男たちが集まっている。ガストーネ子爵が、ヴィオレッタに紹介したのは、彼女に憧れるプロヴァンス地方出身の青年アルフレードだった。「乾杯の音頭を」と促されたアルフレードはヴィオレッタへの恋心を歌い、ヴィオレッタは彼をからかうように、酒と快楽の人生を謳歌しようと応じる。「乾杯の歌」
華やいだ雰囲気の中、客たちを食事の席へと案内しようとするヴィオレッタだが、めまいがして座り込んでしまう。心配する客たちを「なんでもないわ。どうぞ先にいらして」と隣室へと送り出した彼女は、肺を病んで青白い自分の顔を見つめる。そこにアルフレードが現れ、彼女への想いを「この宇宙のすべての鼓動のような、神秘的で誇り高く、苦しみと喜びに満ちた恋」と熱く語る。そのまっすぐな熱意にヴィオレッタは心を動かされ、一輪の花を差し出し「この花が枯れたら戻っていらして」と言う。二重唱「ある日、幸せに満ちた天女のような」
明け方が近づき、客たちはヴィオレッタに挨拶をして帰っていく。ひとり残ったヴィオレッタは、アルフレードの言葉を反芻して、純愛への憧れを口にする。しかし次の瞬間、自分の高級娼婦として生きている立場を省みて「いいえ、人生を愉しむのよ!」と自嘲的に語る。大アリア「ああ、おそらくあの人なのね〜花から花へ」

第2幕

(第1場)パリ郊外にあるヴィオレッタのパトロンが所有する別荘
ヴィオレッタがパリの社交界から身を引き、アルフレードと暮らし始めて3ヶ月が過ぎようとしている。アルフレードが、ヴィオレッタとの暮らしの幸せを歌う。カヴァティーナ「燃える心を」
そこに旅姿をしたヴィオレッタの召使いアンニーナが戻ってくる。彼女から、この生活を支えるためにヴィオレッタが財産を次々と処分していることを聞いたアルフレードは、そんなことすら気が付かなかった自分を恥じて「お金を工面する」とパリへと出かけていく。カバレッタ「ああなんという後悔」
彼が出掛けたあと、ヴィオレッタが現れてアルフレードがいないのを不審がる。彼女は下男のジュゼッペに「商談のお客様がお見えになったらお通ししてちょうだい」と命じる。パリ時代の友人フローラからのパーティの招待状が届いているのを見つけた彼女は「とうとう私の居場所を見つけたのね。誘ったって無駄なのに」と笑いながら、その招待状を脇のテーブルに置く。
そこにジュゼッペに案内されてひとりの紳士が現れる。ヴィオレッタは彼を、待っていた財産を処分するための商談相手と思って迎え入れるが、それはアルフレードの父、ジェルモンだった。ジェルモンは、息子を高級娼婦から取り戻し、故郷へと連れ帰るためにやって来たのだ。突然のジェルモンの来訪にヴィオレッタは驚く。自分の息子が娼婦にたぶらかされ、財産を使おうとしていると思い込んでいるジェルモンに、ヴィオレッタは自分の財産を売り払っている書類を見せる。ジェルモンは意表を突かれるが、自分の娘の縁談が「兄が娼婦に入れ揚げていることが原因で破談になりそうなのだ」と話し始める。二重唱「天使のような清らかな娘を」 その話を聞いたヴィオレッタは「しばらくの間アルフレードと離れています」と提案するが、ジェルモンは彼女に「息子と永遠に別れてほしい」と言い、「男の気持ちなど移り気なものだ。色香の褪せないうちに、儚い夢を見るのはおやめなさい」と語る。彼女は「自分のような女には幸せは訪れないのだ」と悲しげに呟く。そしてヴィオレッタは、アルフレードとの別れを決心してジェルモンに「強くなるために、私をどうぞ娘のように抱きしめてください」と語る。二重唱「お嬢さんにお伝えください〜どうか娘のように」
ジェルモンが一旦去ったあと、ヴィオレッタが別れの手紙を書いているとアルフレードが戻ってくる。「父から厳しい言葉が並んだ手紙が来た」と語るアルフレードに「ならば私はここにいない方がいいわ。席を外すわね。」と言ってヴィオレッタは彼の元からさりげなく去ろうとするが、感極まって「私があなたを愛するのと同じぐらい、私のことを愛してくださいね」とアルフレードに抱きつき、そして走り去っていく。
彼女の様子に漠然とした不安を抱くアルフレードの元に、パリへと向かったヴィオレッタからの別れの手紙が届く。彼女のあとを追おうとしたアルフレードの前にジェルモンが立ちはだかる。そして、息子に「一緒に家族の待っている故郷に帰ろう」と優しく語りかける。カヴァティーナ「プロヴァンスの海と陸」〜カバレッタ「いや、咎めているのではない」
一度は父の説得に応じそうになったアルフレードだが、テーブルの上にフローラからのパーティの招待状を見つけ、ヴィオレッタが自分を裏切って他の男のところへ行ったのだと思い込んだ彼は、嫉妬に狂い、父の制止を振り切って飛び出していく。

(第2場)パリのフローラの館で開かれているパーティ
華やかなパーティでは、ジプシーたちが踊りを披露している。客たちが「ヴィオレッタとアルフレードが別れたらしい」と噂しているところに、当のアルフレードがひとりで現れる。一足違いでドゥフォール男爵にエスコートされたヴィオレッタが現れ、アルフレードの姿を認めて、パーティに来たことを後悔する。男爵とアルフレードがポーカーで賭けを始めて、アルフレードが勝ち続ける。食事の用意ができたとの知らせに客たちは食堂に向かう。そのときヴィオレッタはアルフレードに「話があるの」と囁く。皆が去ったあと、ヴィオレッタの前にアルフレードが現れる。ヴィオレッタは彼の身を案じて「すぐにここを去って」と話しかけるが、彼はヴィオレッタが自分を追い払おうとしているに違いないと邪推する。そして人々を呼び戻し「この女は俺のために財産を全部手放した。それを全部このポーカーの儲けで支払ってやる」とヴィオレッタに紙幣を投げつける。ヴィオレッタはショックのあまり倒れ、人々はアルフレードの紳士にあるまじき行為を非難する。そこに息子を追って来たジェルモンも現れ、「お前はもう息子ではない」と息子を叱る。我に返ったアルフレードは後悔するが、すでに遅く、男爵は決闘の申し込みの印として、身につけていた手袋を彼に投げつける。

第3幕

謝肉祭で賑わうパリのヴィオレッタの館
家財道具を売り払いがらんとしたヴィオレッタの館の一室。肺病で余命いくばくもないヴィオレッタがベッドに横たわっている。目を覚ましたヴィオレッタが、うたた寝をしていた召使いのアンニーナに声をかける。外からは謝肉祭を祝う人々の華やいだ声が聞こえてくる。ヴィオレッタの友人で医師のグランヴィルが様子を見にくる。そしてアンニーナに「もってあと数時間だろう」と告げ、「また夕方立ち寄る」と言い残して去っていく。ヴィオレッタはアンニーナに、残り少ないお金を貧しい人々に分け与えるように言い、手紙が来ていないか見て来てほしいと頼む。
ひとり残ったヴィオレッタは、何度も読み返しているジェルモンからの手紙を取り出す。そこには、アルフレードと男爵の決闘で男爵が怪我をしたが、その傷も今は癒えたこと、アルフレードは外国にいるが、あなたに会いに戻ってくると書かれてあった。彼女は「待っても待っても彼は来ないわ」と絶望的になり「私の墓には、十字架も花も捧げられることはないのよ」と語る。アリア「さようなら、過ぎ去った日の美しく楽しい夢よ」
そこにアンニーナが駆け込んで来てアルフレードの来訪を告げる。ふたりは再会を喜び合い、アルフレードはこれまでのことをヴィオレッタに詫び「パリを離れて二人でやり直そう」と語りかける。二重唱「パリを離れて」
喜んだヴィオレッタは、教会へ行くと言って着替えようとするが、彼女にはそんな力はもう残っていなかった。彼女は死を覚悟して自分の肖像画の入ったロケットを「あなたに愛する人ができたら、その人に渡してください。あなたを心から愛した女が天国から見守っていると」と言いながら、アルフレードに手渡す。
駆けつけたジェルモンはやつれ果てたヴィオレッタの姿に、自分がしたことの残酷さを後悔し、アンニーナに呼ばれて戻って来たグランヴィルとともに彼女を見守る。
ヴィオレッタは突然立ち上がり「不思議だわ。もう苦しくないわ。もう一度生きられるのよ」と喜びの声を上げるが、その直後その場に崩れ落ち、息絶える。

(河野典子)

WEBでチケットを購入 お電話でチケットを購入